お姫様を捜す前に
「誰だって聞いてんの」
弱そうなことに安堵したのか、はたまた学生だからなのか。
さっきより語尾を柔める。
「僕、2-4の由田聿って言います!」
「いち…」
長男なのかな?
「でー?なんで覗きなんかしてんの?
ファンか何か?」
「はい!」
「は…え?」
伊織がビックリしてる。
そりゃあ満面の笑みでバックにお花背負ってファンです、って言われたらねえ。
「だって白龍先輩かっこいいですしー
紫恩先輩可愛らしいですもん!
本当お似合いのカップルですよねえー」
「ぶっ」
ふ、吹いてしまった。
「なっ…か、かかかかかあ!?」
顔の温度が上がった気配がする。
耳がこげそう。
「たまき…顔真っ赤ー」
楽しそうに笑う伊織。
「だ、だって…」
カップルなんて。
あぁ、でもちょっと嬉しいかも。
私と伊織はカップルに見えるんだ。
「えーと」
「由田です」
「聿くん、俺らカップルじゃあないんだよねえ」
伊織、なんで名前聞いて別の呼称で呼ぶの?
「あとあんまりつけてると――」
茂みを見つめる。
ガサリ、揺れる葉。
「東、いい加減にしろー」
「い…伊織さまは隙が多いんです!
危なっかしくて仕方ありません!」
着物姿の東が立ちあがる。
顔を真っ赤にして。
だって
「東は本当に俺が好きだなあ」
そう言われるのをわかってるから。