お姫様を捜す前に

伊織には妹がいる。


4歳違いの妹が。



その子は村じゃないところに逃げている。



伊織のお母さんと一緒に。




『俺は捨てられたんだよ、結局』


自嘲気味に言う伊織。


『俺より自由を選んだんだ、白龍舞雪は』


そして、その先の自由で妹を産んだ。



そーゆーこと。



そしていつか、伊織はその妹と子供を作らなきゃならない。


それは絶対に曲がれない運命。




だから、そう――いけないんだ。




私が伊織を好きになっちゃ。




でもやっぱり、好きは止まんないの。


絶対いつか悲しい想いをするのにね。



「わかってるよ…だから、私を傷つけなよ」



傷つけて、伊織を嫌いにさせてよ。

私に伊織を嫌わせてよ。


そしたら苦しくなくなるからさ。


「悲劇のヒロインが」


つまんなさそうに言い、それと同時に息が苦しくなった。

お腹らへんに重圧感と痛み。


あ、殴られたんだ。


バタリと倒れて、土の匂いに包まれる。


落ちた桜の花が舞う。



綺麗、無意識にそう感じる自分がいた。
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