喩えその時が来たとしても
『そう、その運袋だ! 生き物にはその個体それぞれの運袋が備わっている。小さいものから大きなもの、中味の濃いもの薄いもの、哲也の……ああ呼び捨てしちゃってすいません』
私は先輩の事を呼び捨てしている事にやっと気付いた。顔がみるみる紅潮しているのが自分でも解る程、身体も顔も火照っていた。
「兄貴が喋ってるんだ。哲也でいい。それにめぐ、二人の時は……俺の事……て、哲也って呼んで構わないから……な」
先輩も心なしか照れて赤くなっているみたい。
めぐ。
哲也。
めーぐ。
テーツヤ。
ああ、めぐ、めぐ!
哲也、ああ哲也っ!
めぐ……俺もう……。
哲也っ……駄目っ……、
「私もっ!」
「……めぐ、何が私もなんだ?」
先輩の問いに現実へと引き戻された。馬鹿な私はまた妄想の海を泳いでしまっていたの。男の人とのアレでイッた事も無い癖に、エクスタシー寸前まで没入してしまうなんて!
「いえ、ええ、何でもないです、はい。えっと、その運袋なんですけど、先輩のは……」
「哲也のは、だろ」
少しヘソを曲げた感じで先輩がそっぽを向く。このツンデレ加減ったらナニ? もうキュン死にしそう(ハートマーク)
『て、哲也のは中味も濃いし、でっかいんだ。昔っからお前は運が良かっただろ? あれはお前の運袋が絶品だったせいだ』
「絶品の運袋か。良く解らないけど、凄いのかな」
『ああ凄い。それを小出しにしてたから解らないかも知れないが、本当だったらもっと凄い事になってたんだ』
お兄様の暴れようも凄い事になってる。先輩も渋い顔で飛び散るおがくずや菜っ葉の切れっ端の行方を見守っている。
「でもさぁ兄貴。俺自体、そんなに運が良いとは思わないんだけど……」
先輩は私をチラ見しながら付け加える。
「めぐと付き合えるようになったのは、この上無いラッキーなんだけどね」
ズッキュゥゥン!
駄目。撃ち抜かれたわ。こうして息をしているのが不思議な位。私はゼィハァ言いながらお兄様の言葉を待った。
『めぐみちゃん』
「はぁ、ハイッ」
『具合悪そうだぞ? 少し休むか? ほら、同時通訳の人とかでも凄くエネルギーを使うとか言うだろ?』
このハムスターったらジェントルマンだわっ! さすが先輩のお兄様、なるほど岡崎の血統。でもでも、妄想疲れの果てにとどめの一撃を食らったからこうなってるなんて言えない。
「ええ。じゃあお茶でも頂かせて貰います」
私はそう言って何とかその場を乗り切った。