喩えその時が来たとしても
『そうだ、雌スターを買ってくれよ。嫁さん欲しいんだ、最後に』
雌スターだってお兄様、それは雌ハム相手にアノ行為をするって事よね。なんて飽くなき探求心なのっ? でもでも……ハムスターの交尾って……気持ちいいのかしら。
そんな事を考えて赤面してしまう私は、まだまだ妄想のスペシャリストとは言えない。そこからハムスターの気持ちになって、プレイを楽しまなければ……ってことはお兄様とあんな事やこんな事を? いえいえそれはイケナイわ。私はもう先輩の物なんですもの、喩え妄想世界においても浮気は御法度。私の愛は揺るがない。動かざる事山の如しよ。
「そうか。じゃあ今度の休みにまたあそこに行こう。兄貴好みの雌スターが居ればいいけどな」
『パートナーは俺が選ぶ。一緒に連れてけ』
そうね。どうせだったら美ハムの方がいいでしょうから。人間の基準じゃそこら辺を完璧にお兄様の好みに合わせるのは難しそうだもの。ご本人が選ぶのが正解だわ。
「ったく。わがままなハム太郎だな」
『雅也お兄様だ』
「ハイハイ」
二人を見てると微笑ましい。私なんか歳の離れた弟しか居ないから、こんな関係にはなれないと思う。二人を羨ましくも思った。
そんなこんなで、私の初お邪魔記念日は呆気なく終わったのだった。
そして日曜日。
私達はそのペットショップに居た。
「……どうなんだ、兄貴……」
先輩がケージにこっそり尋ねた。
『いや、不思議なんだがな。同じジャンガリアンハムスターには魅力を感じないんだよ、っておっしゃってますけど……』
周りの人に怪しまれないように自然とヒソヒソ声になってしまう私達は、周りから見れば最も怪しい二人だろうと思うの。
「でも兄貴。生前、デブとデカイ女は嫌いだと言ってたよな。ゴールデンハムスターじゃ好みに合わないんじゃないか?」
先輩ったら。後ろにそのデブでデッカイ女性がいらっしゃるのよっ! 嗚呼っ視線が痛いわっ!
「なぁ、駄目だろ? デブでデカいメスはさぁ」
「ふんぬっ!」
言ったらあの○ツコ・デラックスのような黒いドレスを着て、ひっ詰めた髪を頭頂でお団子にしている妙齢の女性は、鼻息も勇ましくその場を去って行った。
「んな、なんだ? なんか有ったのか?」
「虫の居所が悪かったんじゃないですかぁ?」
でもあの人、ペットショップに来るのにはちょっと香水がキツ過ぎよね。ワンちゃん達がやたらとくしゃみしてたもの。