喩えその時が来たとしても
お兄様はキッズアニメよろしく腕を組んでふんぞり返ったけど、ものの数秒もじっとはしてられないみたいで、今は回し車を回してる。
『思念体と言うのかな。魂には実体が無いんだ。だが便宜上の身体をまとっている。そして同じく便宜上必要な建物や道や自然の風景なども有るが、それは俺の主観が作り出した世界で、他人からはまた違ったように見える』
「よく解らんな……」
『解り易く言えば、自分の思い描いていた来世がそのまま自分の来世であり、主観の数、すなわち魂の数だけ来世が有る。でもそれは実体をなしていないのだから、そもそも来世なんて物は無いとも言える』
「はぁ……ちっとも解り易く無いんだけど……」
先輩は眉をしかめて黙り込んでしまう。部屋は重苦しい空気で充満してしまった。
『……まあ死んだら解るさ。で、そこ……来世でな、杉浦監督に会ったんだ』
その空気に嫌気が差したのか、お兄様はまた話し出した。
「杉浦監督? って、あの杉浦監督かよ!」
今までは気だるい感じで聞き流していた先輩が、その話題に目を輝かせて飛び付いた。
『ああそうだ。あの頃のまんまだったよ……ああ、俺からはそう見えてるってだけなんだがな』
「先輩、杉浦監督って?」
「俺達がまだ子供だった頃世話になった、リトルリーグの監督だよ。懐かしいなあ」
遠い目をした後先輩は昔を懐かしんで瞼を閉じる。頬がすっかり上気して、少年のような微笑みを浮かべていた。
『そう、恰幅が良かったあの頃のままの監督が、俺の指導係だったんだ』
「「指導係?」」
私と先輩は声を合わせて聞き返した。
『ああ。無神論者が増えた今、来世での暗黙の了解やマナー、モラルが崩壊状態だったみたいで、社会秩序を守る為にも見習い期間を設けて、来世の規律を学ばなければいけなくなったそうだ。その指導係が杉浦監督だったってワケ』
「兄貴だって無神論者だろ」
『ああ。だから来世のアウトローにならないように、指導係が付いたんだ。そして監督から運袋の事を聞いた俺は、お前を死なせない為にも転生を願った。生憎人間の身体はグシャグシャだったんで生き返る事は出来ず、他の生き物になるしかなかった。喩え言葉が話せなくても、お前のそばに居て、危機を報せるチャンスを窺う事にしたんだ』
「うっ……あっ、ありが……兄貴っ……ぐっ」
先輩は感涙に言葉を詰まらせながらお兄様に感謝の念を伝えている。お兄様は照れ臭かったのか、その走りの激しさったらなかった。