喩えその時が来たとしても
しかしそんな時だった。突然馬場めぐみがメールを寄越したのは!
『哲也。あなた女にうつつを抜かしてない?』
「……!!!」
何故だ!
いったいどうして解ったのだ!
俺がただ何も出来ずにおたおたしていると、また続けざまにメッセージが入る。
『今電話してもいい? 自宅よね』
「女の勘は鋭い」なんて言うが、こういう事だったのか!
さしたる対抗策を考える暇も無く、すぐさま馬場めぐみから着信が入る。
なんという速攻だろう、プロフェッショナルなプレイヤーでも(何の?)たじたじとなるに違いない。
『もしもし哲也? 久し振りね……』
「お、おう。元気だったか? めぐ」
彼女の声は落ち着いていて、寧ろ冷ややかさすら感じる。俺は何を話したらいいかも解らず、そう適当に返してしまったが、却ってそれが彼女に火を点けたようだ。
『何言ってんの! 哲也と会えないのに元気な訳ないでしょ! 会えなくて寂しくて……それでもどうしようもなくって待ってるのに、私を放っておいたままで、途中経過さえも全然教えてくれないなんて! 一体私は哲也のなんなの? 答えてよ! なんなのよ!!』
「な、なんなのって……そんなのか、彼女に決まってるじゃないか……」
『………』
最初の冷静さは精一杯のポーズだったのか、馬場めぐみは一気に捲し立て、そして沈黙した。
『う……う……ふぇっ、ふぇっ、ふええええん』
そしてついには泣き出す始末。
「おいおいめぐ、泣くなよ」
「哲也さん、彼女でしょ。ここに呼んで差し上げたら? 多分私の強運が有れば彼女に災難は訪れないと思うの」
そうか。その手が有った!
何もしおりさんと浮気をしている訳ではないので、馬場めぐみに対して断じて後ろ暗い事は無い……と思う……。それに俺の思惑は別としても、しおりさんとの関係は相談に乗って貰っているだけの清い物だ。馬場めぐみにしおりさんを紹介しておけば寧ろ、今後は堂々と会えるではないか。
『そうだな。めぐみちゃんは哲也に似て余計な勘繰りに過ぎる所が有る。ここは一度、しおりさんと会わせておいた方がいいんじゃねえのか?』
「めぐ。会って貰いたい人が居るんだ。今日は祭日だし、現場は全休だったよな。これから家の方に来れるか?」
『行けるけどぉ……ふぇっ、ふぇっ』
「じゃあ済まないけど喫茶アニマルプラネットに来て欲しいんだ」
兄貴の後ろ楯も有ったので、俺はしおりさんを馬場めぐみに会わせる事にした。