喩えその時が来たとしても
哲也には会いたい。
もの凄く会いたい。
会いたくて会いたくて、頭がどうにかなりそうなの。
でもそれにはあの牧村とかいうオバサン立ち会いのもとでないとイケナイ。
何故恋人同士が会うのに立ち会い人が必要なの? 今更お見合いでもないのに。
そんなこと言ってるけど、私も解ってるの。あのオバサンの強運がないと、私に災難が降り掛かってしまうからだってことは。だから、感謝もしてるの。曲がりなりにも哲也と会えるようになったのは、あのオバサンのお陰なんだから。
「でも……」
「ん? でもどうかしたか? 馬場ちゃん」
「へ?」
大沼所長から尋ねられて気が付いた。周りを見回すと、職長さん達の視線が私に集まっている。今は打ち合わせのまっ最中だった。またしても私は、妄想世界に没入してしまってたみたい。
「あっ、ああ。こっちの話です。すいませんでした」
大沼所長は微笑みながら頷いて、改めて列席の一同を見回した。
「そか。ならいいや。あ、それから皆さん。来週アタマから俺の右腕と新入社員がこの現場に来ます。その社員の研修みたいなものなので、大勢タイセイには変わりありません。新人クンは中途採用だけど、かなりキレ者らしいので、あまりイヂメないように頼みますよ」
所長の冗談っぽいお願いに、職長さんたちが銘々突っ込みを入れる。
「いじめる訳無いじゃないすか」
「大沼さんがいじめる気満々なんじゃないですか? ハハハ」
ホント、つくづくこの現場は和やかだ。つつがなく、予定表通りに進んでいるのが現場そのものの余裕となり、ギスギスした感じが全く無い。かといってダラケているかと言えば逆に、掃除は隅々まで行き届いているし、職人さん達の身なりは整っているし、周辺住民さんからの苦情も一切無い、お手本みたいな現場だ。
それもこれも、フランクだけど仕事が出来る大沼所長のお陰に他ならない。常に先を見通した段取りで、先手先手に対策を講じてあるから、トラブルが起きても全く工期に影響しない。寧ろ工期よりも前倒しで進んでいる感じ。
もし哲也と知り合ってなくて、大沼所長があと十トウ若かったら、私が所長を見る目はキラキラと輝いていたに違いない。
その大沼所長が自ら右腕だと言ってのける人物と、中途採用してまで会社が採りたかった人物が来るというのだから、週が明けるのが楽しみになったわ。