喩えその時が来たとしても
あれからどれだけ走ったんだろう。
ここは一体どの辺なんだろう。
私達は郊外のさびれたホテルの駐車場に居た。
ジメジメと湿った空気。
月の見えない真っ黒な空。
チカチカと点滅している古ぼけた看板灯。
私の肩に乗せられたフジハラさんの手。
数台分ある駐車スペースの奥にポツリと停められた、職人さんの車とおぼしき軽ワゴン車と、それに全く不釣り合いなアヴェンタドール。
私の精神は身体から乖離して、冷静に二人の動向を観察している。
私はと言えば、初めてホテルに来たかのように、カタカタと肩を震わせている。フジハラさんはそんな私を覗き込んで心配そうにしてるけど、片頬は醜く歪んで釣り上がっているところを見ると、なんの苦労もなく自らの術中にはまってきた私を蔑んでいるようにも思えた。
「大丈夫かい? 随分震えているようだけど……まさか……処女じゃないよね」
半笑いで軽めに聞いてくるフジハラさんの語調には、でもしっかり期待の念がこもっている。それが証拠に「そんなわけ無いじゃないですかぁ」と返した私の言葉に対してフジハラさんが放った言葉に、明らかな落胆の影がさしていた。
「そ、そうだよな。馬場さんみたいに魅力的な子が経験無い訳……無いよな」
「処女じゃなくてがっかりしました? でも、処女よりずっとフジハラさんを悦ばせてあげる自信は有りますけど」
私は高圧的な態度でそう言っていた。哲也を裏切る罪悪感から、全身をさざ波のように襲って来ていた寒気もいつの間にか消え、身体の震えもすっかり止まっていた。
「私を放っておく哲也が悪いんだから」
フジハラさんには聞こえないように、私は呟いていた。ここに来させたのは自分のせいではないんだと、そう自らに言い聞かせることによって、私は罪の意識から逃げていたの。
「へええ、そりゃ楽しみだな。馬場さんもすっかりその気だって事だね?」
「ええ。たくさん可愛がってね」
哲也との時にも出なかったような大胆な台詞が口を突いて出てくる。妄想で身悶えするのはもうたくさんだもの。こうなったらトコトン楽しんでやるわっ!