喩えその時が来たとしても
ふと気が付くと、もう私は妖しい照明の照らされている部屋の中に在った。フジハラさんはバスローブに着替えていて、ラブソファーにゆったり腰掛けながらタバコをくゆらせている。顔中のおヒゲが威厳を醸し出していて、なんだか石油王の休息って感じ……。いえ、見ようによってはクマさんのヌイグルミがメガネを掛けて寛いでいるみたいで可愛いかも(ハァト)
「風呂場が暖かい内に浴びておいで」
ああ、フジハラさんはバスルームを温める為に先に入ってくれたんだ。もしかして急かされてるんじゃないかと思ってたけど、思い遣りのこめられた、計算された行動だったのね。
そう納得した途端、ジュワっと熱いものがあふれ出すのが解った。フジハラさんの細やかな心遣いに、私は更にやられてしまっていたの。
……そしてまた我に帰ると、仰向けに寝ている私の目前にフジハラさんの顔が有った。メガネの奥に有る、普段は優しい瞳からはその影が消え、らんらんと光る双眸から放たれるいやらしい視線が私の心を浸食し、身体の隅々にまで根を伸ばす。
「俺、馬場さんのこの白い肌が堪らなく好きなんだ」
フジハラさんも男性としては白い方だけど、私の極めが細かいミルキーホワイトの肌は、自分でも中々の絶品だと思うの。
「俺もほら、勉強ばかりで運動とは縁遠い方だったから、小麦色に焼けた肌だと気後れしてしまってね」
やっぱり『脳味噌筋肉』みたいな女より、私の方がイケてるってことよね!
「私も、体育会系はあまり得意じゃないです」
そうよ、そう! だから貴方のインテリジェンスで私をメロメロにしてっ!
「ふふふ。俺達は惹かれ合うべくして此処に居るって訳だね」
そう言いながらフジハラさんは私の首筋に唇を這わせた。その柔らかい感触に相まって、チクチクとおひげが肌を刺激する。生暖かい吐息が、更に私の肌を赤熱させる。
「嗚呼馬場さん。この薄暗い照明の中に在っても尚君は輝いているよ! 素敵だ、素敵過ぎる」
掛け布団を全部はぐり取って私の裸体を眺めているフジハラさんの男らしさが、その部分が、更にムクムクと自己を顕示する。今まで見たことも無いようなその迫力ある容貌に、身体が引き裂かれるんじゃないかと思った最初のアノ時が脳内にフラッシュバックした。
「フジハラさん……お、大き過ぎる……」
「大丈夫さ、その分丹念にフォープレイするから……ね、馬場さん……馬場さん?」
私は言葉を失なってしまっていた。