喩えその時が来たとしても
「嗚呼、私……告白する前から振られちゃったんだ……」
少々食い気味に渕さんが返す。
「だから諦めろっつったんだよ」
そうだったんだ。やっぱり先輩はあの時の私に違和感を覚えていたんだ、好意を持てずにいたんだ、二人は通じ合えなかったんだ。もしかしたら告白する為に私を呼び出したのかも知れないのに、私のせいで話も盛り上がらなかったし、先輩の期待にも応えられなかった。だから私は置き去りにされたんだ。
私の心は喪失感と虚無感とで支配されそうだったけど、その中にムクムクと真っ黒な感情が頭をもたげ始めた。
「でも渕さんだって女友達と飲んでたんでしょ? それって彼女なんじゃないんですか? だって下心が無い友達だったら、岡崎先輩に声を掛けても何も後ろ暗い事は無い筈だもの」
先輩が駄目なら渕さんとか、そんな無節操な女ではないけれど、私と付き合いたいと言うのなら他の女の存在は有り得ない。
「いや、そりゃ、だから違うって。たまたま立て込んだ話だったからだ、そうだよ」
渕さんはしどろもどろになって弁解した。普段見ているクールでイカツイ感じが微塵も感じられない……でも、このモロワルな渕さんを虐める感覚はちょっぴり捨て難いかも。……そう考えた途端に、私の泉はジュンとなった。
「まあ付き合っている訳じゃないから、渕さんがどなたといらっしゃってもご勝手ですけど」
私は冷たく突き放す語調で渕さんに背を向ける。でも私の背中は彼の気配を逃すまいとアンテナを張っている。その向こうで渕さんは、済まなそうに身体を捩っているようだ。
「いや、ホント。その女とはなんでもないんだって! めぐみちゃんが付き合ってくれるなら、もう金輪際ヤツとは会わないって誓うよ」
わざわざ私の前に回り込んで手を合わせて懇願してくる渕さんが可哀想で、でもなんだか可愛く見えて、また更に私の心は揺らいでいた。
「渕さんモテそうだから、他にもそういう女性が沢山居るんでしょ?」
あくまでも参考までに聞いてはみたけど、この流れからするとそんな女が居さえしなければ、私と渕さんが付き合う事になるんじゃないだろうか。
「そんな、めぐみちゃん。俺なんかモテやしねえって。いや、なんだったら他の女友達もみんな切る。めぐみちゃんが付き合ってくれるんならそんなヤツら惜しくねえ」
渕さんに取って私は特別なんだ……必死のアタックと甘言に私はジリジリとリングのコーナーに追い込まれていた。