喩えその時が来たとしても
「あ、そういえば。俺、謹慎解かれたから、明日からまた宜しくな」
所長から頼まれた復帰の件を話した。だが聞こえているんだかいないんだか、佐藤は香典の整理をしている。
「えっ? ほんとですか? 助かりますう~。やっぱり音頭を取っているのが所長じゃあ頼りなくってえ~」
聞こえていたらしい。
しかしこれで所長も俺の重要性が解っただろう。直接俺へ頼みに来た事が信頼の証だ。だが俺は、もし出世が出来て所長になれたとしても、あんな風にはならないぞ、と心に誓う。
そして翌日。俺のどんよりと垂れ込めた心と対照的に、空は雲一つ無い快晴だった。アパートを出た俺の髪を、フッと掻き上げるように風が撫でていく。
事故の事を考えて、昨日は一睡も出来なかった。考えれば考えるほどあれは、まるで運に見放されたとしか言えないような死に様だった。次から次へと厄災が重なり、結果彼は命を失った。更に、参列者に姿を見せぬまま窓の無い棺で焼却されたのは、献花も最後のお別れも出来ないほどに損傷した遺体だったからだ。
本来なら死ぬ筈だった人々を俺が救ってしまったから、運命とか宿命とか、神様とか仏様なんかの予定が、まるっきり狂わされてしまったのではないだろうか。だから俺が現場を離れた途端、その大いなる力はまるで見せ付けるように相馬を殺した。だがそうなると、もし俺が本当に命を救う力を持っているとすると……謹慎にさえならなければ、いつも通り現場で働いていれば、相馬は助かっていたかも知れないのだ。
晴天の下、俺だけひとりうなだれて歩いている。寝不足が辛いのもあるが、まだ解決に至っていない問題が山積みだ。遅々として足が進まない。会社で訓戒を貰ってからの現場だというせいも有るだろう。
だが、それでも何とか現場に辿り着く事が出来た。
「やっぱり岡崎さんが居ないと駄目だよ」
「来てくれて助かった」
「相談したい事が有ってさぁ、これなんだけど……」
何日か現場を空けただけなのに、押すな押すなのモテ振りだ。思えばこうやって皆から頼られてきたからこそ、キツイ監督仕事もやって来られたという気がする。
「でさぁ、仕事の話は置いといて……どうなんだよ、アッチの方はさ!」
それは俺が聞きたい。何としても伺いたい。俺が久し振りに現場へ出て来たというのに、馬場めぐみの様子がオカシイのだ。酷くよそよそしいのだ。まるで俺を避けるように、あちこち走り回っているのだ。