喩えその時が来たとしても
今日は謹慎が解けて岡崎先輩が出勤してくる日。高橋所長の裁量という形で免罪符を貰えたみたい。でも私の罪は消えない。誰からも免罪符は貰えない。特に、先輩に対して「許して」なんて言えよう筈もない。
「よお、めぐみちゃん。おはよう」
型枠大工の佐藤さんだ。
「おはようございます佐藤さん。今日は早いですね」
こんな早くに型枠大工さんが来るなんて、搬入か何かかしら。
「ああ、実は気になる事が有ってね。早目に来てみたんだ」
「?!」
ヤダ! 何コレ! デジャヴ? 佐藤さんまで私のダイナマイトボディーを狙ってたってわけっ?! ……私は胸を手で隠して佐藤さんに背を向けた。
「どうした? 寒いのか? 風邪引いたか?」
ああ、極限自己嫌悪! 佐藤さんがそんな事思う筈がない。こうして私の身体を気遣ってくれているというのにっ!
「いえ、ちょっと今日は涼しいな、って思っただけです」
「そんなら良かった。俺は朝礼前に道具片付けてくるわ。朝から雨だってラジオで言ってたからよ」
気になる事ってそういう事だったのね。自意識過剰も大概にしないと!
「おはよおお、今日は岡崎さん来るってさあ~」
知ってるわよ! それでドキドキが止まらないんじゃない! ホント鈍いわね! でもでも、ちゃんと先輩から離れる事が出来るかしら……あの声に誘われて、性懲りもなく先輩に近付いて、いつの間にか元の木阿弥になってしまうんじゃないかしら。
「あああ。会社でお小言貰ってから来るみたいだから、着くのは昼前位じゃないのお?」
それは初耳だわっ。ああ、朝から一緒じゃなくて良かった。いつもより来るのが遅いのはそういう事情が有ったからなのね。鈍牛情報も侮れないわっ。
「ねええ、めぐみちゃあん。岡崎さんと付き合うんでしょお? 岡崎さんいいなああ~」
言うに事欠いて何て事を言ってくれちゃってるのこの人はっ! このボロボロの乙女心を更にズタズタにしようって魂胆なのねっ!
「佐藤さん。そういうのってセクハラですよ!」
私の語調が剰りにキツかったのか、佐藤先輩は慌てて前言撤回した。
「ごめえん、そんなつもりじゃなかったんだよお。聞かなかった事にしてえ~」
「はいはい、気を付けて下さいね」
佐藤先輩への返事途中で詰所を出て、雨も降らないようなのでいつものようにラジオ体操と朝礼の準備を始める私。週始めだから安全当番の交代もしなきゃ。