喩えその時が来たとしても
すると普段の行いがいいからなのか、私に救いの手が差し伸べられた。(ここは突っ込みドコロよ!)
『馬場さん。手が空いたらちょっと用事を頼まれて欲しいんだけど……』
所長からピッチに電話だ。私は一も二もなく快諾した。
「はい、今丁度ひと仕事終わったところです」
『こまごました文房具をな、買ってきて欲しいんだ』
「はい、行きます。行かせて頂きます」
文房具屋は駅の向こうに在る、自転車通勤の私にうってつけのお使いだ。私は渡りに舟とばかりに飛び付いた。そして外階段を急いで降りている最中、職人さんと話している岡崎先輩が見えた。見えてしまった。
「先輩……」
やっぱり好き。私は先輩の事が好きなんだ。あのセクシーボイスが聞こえないここからでも、その気持ちは変わらない。だからこそ、先輩に申し訳なくって、付き合ったりなんか出来るわけない! こんな穢れたエロ女を先輩の彼女になんかさせられない。
それに先輩は、渕さんには私を渡さないと言ったかも知れないけど、佐藤先輩と私を付き合わせようとしてそう言った、っていうオチだって、無くはないんだから。
「イケナイイケナイイケナイ」
また考え過ぎて身体の動きが止まってた。気付けばもう先輩も居ない。私は急いで事務所に居る所長のもとへと急いだ。
「ああ馬場さん、これね。メモしておいたんで頼むよ」
「めぐみちゃん、序でにこれも頼まれてえぇ」
事務の鈴木さんからは自治体指定のポリ袋を受注。注文が多ければそれだけここに帰ってこなくて済むわけだから、大切なお客様だ。だけど鈴木さんったら、例に漏れず今日のファッションもエロエロだった。チューブトップにスカートが付いたワンピースの上に、粗めのレースで出来たカーディガンを羽織っている。谷間をハッキリくっきり見せちゃってるから、女の私でも目のやり場に困る。
「なぁに? めぐみちゃん、私の顔になんか付いてる?」
付いてはないけど書いてある気がする、「私エロいです」って! でも、毎日口説いてた渕さんにはなびかなかったようだし、実は意外と身持ちは堅いのかも……。
「いえ、ナンでもないです。それじゃ、行ってきます」
「馬場さん宜しく。ああ、時間が半端だったらそのまま昼に行ってもいいからな」
「はい。ありがとうございます」
願ってもない、お駄賃みたいな好条件を所長から頂いて、私は真っ赤な相棒と早々に現場を逃げ出した。