喩えその時が来たとしても
「気になって仕事が手に付かねえんだよな」
「みんなの前で公言したんだから、決着は着けるべきですよね」
「二人ともよそよそしくて見ちゃいられないぜ」
「そうだそうだ!!」
みんな好き放題言っている。所長も一向に止める気配を見せない。となると、俺がこの場を収束させる他ないのか。挨拶が上手く行った事で自信めいた感情が芽生えた俺は、極めて冷静に言う事が出来た。
「皆さんのおっしゃりたいのは解りました。……でも私的な事に打ち合わせの時間を使う訳にはいきません。今日、業務が終了したら告白します。結果は明日、ここでお伝え致します。いいですか?」
「おおっ!」
「いいぞ!」
「日本一!」
職長達から称賛の拍手と雄叫びが上がった。しかし肝心の馬場めぐみはといえばいつの間にか姿を消していた。
「お疲れっしたぁ。頑張れよ! 岡崎くん」
「はい。全力を尽くします」
早いものでもう6時を回っている。残業していた職人達も殆んど残っていない。
「えっ? えっ? 頑張れってなんなんすか?」
「うるせえぞヤス、おめえは首突っ込んでくんな! 職長会だけの秘密だよ、な、な」
「ずりぃっす、それずりぃっすよぉ~」
頭を小突かれながら引き摺られていく若い衆。彼の口癖は「へ~い」じゃなかったか。そうだ、こうしちゃいられない。この後馬場めぐみに告白しなければいけないのだ。今日は事務的な仕事も残っていないし、職人が全員上がってしまえば我々も帰宅出来る。
「うぉおっ、滅茶苦茶緊張してきた!」
帰る時間になり、マウンテンバイクに乗ろうとしている馬場めぐみを呼び止めて、抱き締めながら叫ぼうか、「付き合って下さい」って。それともコソコソっと耳打ちして、あの居酒屋でリベンジさせて貰おうか。あるいは今から急いでラブレターをしたためて、「読んで下さい」は些か乙女チックに過ぎるな、ウン。
ああ妄想のなんと楽しい事だろう。だって二人は両思いなのだ。俺が思いを伝えれば即ち、馬場めぐみはそれを受け入れる。俺と彼女は晴れて付き合い、カップルとなるのだ。いやステディと言うべきか。
付き合ったら互いの事はなんと呼び合おう、馬場めぐみと岡崎先輩じゃ固過ぎる。めぐみと哲也はなんか、長い間付き合った感が出ていないか? めぐとてつ……ううん。彼女はいいとしても『てつ』は無い、ウン、絶対無しだろう。やっぱり俺の呼び名は彼女に決めて貰うとするか。