喩えその時が来たとしても
「ごめーん、めぐ。やっと有った『濃厚果汁50%入りゴールデンパインスペシャル酎ハイ』コンビニ4軒回っちゃったよ」
やっぱり! 帰りが遅かったのは私のせいだ。でもチューハイ、私が覚えていた名前より随分長かったのね……でもでも、そんな事どうでもいい、とにかく大変なの!
「先輩有り難う、お疲れの所を悪いんだけど……私、大変な事を知ってしまったの……」
先輩は靴を脱ぐ形のまま固まってしまった。いえ、口だけはパクパクと酸素が足りなくなった魚みたいに動いてる。
「めぐ……君は、アレを見てしまったのか?」
えっ? 何? 私が何を見たって言うの? そうして戸惑っていると、先輩は大袈裟なジェスチャーで言い訳した。
「いや、あのDVD達は違うんだ。別に巨乳が好きだからって、君と付き合いたかったんじゃない!」
フフ……そういう事ね。先輩ったら、自分から白状したりして可愛い。尊敬出来るだけじゃなくて母性本能までくすぐられちゃうなんて……って、だからそんな場合じゃないの!
「別にDVDなんかいいのよ。それよりお兄様がそこに居るの」
「ハッハハ何言ってんだ、兄貴は二年前に死んだんだぞ? そこって何だ? 霊でも居るのか?」
先輩は巨乳フェチを責められなくて安心したのか、取り合ってはくれない。笑いながら霊を探すフリをしている。
「違うの。でも違わないけど……雅也さんがそこ居るのよ」
「めぐ。もう一回聞いてもいいか? 兄貴の事、なんて言った?」
「え? 雅也さん……」
「何で死んだ兄貴が雅也だって知ってるんだ? そもそも話した事ないよな、兄貴の話なんて!」
今度こそ真剣な顔になって先輩が私を見た。少し青ざめているようにも見える。
「だって本人、いえ本ハムスターから聞いたんだもの」
私は一歩下がってケージを指し示した。
「……なんだって?」
雅也さんはケージを覗き込む先輩をつぶらな瞳で見詰め返していたけど、急に走り出して回し車に飛び乗った。
「まさかとは思ったけどほら、暢気に回し車で遊んでるじゃないか。そんな筈はないよな、ハハハ」
「お兄様、信じて貰えなくてもいいんですか!?」
私が一喝すると、雅也ハムスターはピタッと止まって回し車から降り、せわしなく水を飲んだ。
『いやわりいわりい。どうも動かずにはいられないように出来てるみたいでさ。長い間じっとはしてられないんだよ』
甲高い声で返事する雅也さん。