喩えその時が来たとしても
「今ハム太郎、めぐの言う事を聞いて止まったか? ……ってそんなわきゃないか」
どうして先輩には聞こえないのかしら! お兄様がこんなにハッキリ喋ってるというのに! これが波長が合わないという由縁ね! 私が焦れていると雅也さんが続けた。
『切っ掛けを作ってくれて有り難うめぐみちゃん。じゃあ哲也にこう言ってくれ。めくるめく爆乳・乳頭温泉で乳房乱舞』
そんなタイトル、乙女の口から言えるワケ無いでしょ! このエロハム!
「めぐどうした? 冗談の続きでも考えてるのか? ハハハ」
雅也さんの声が聞こえない先輩が、私を笑い飛ばす。こうなったら言うしかないわっ。
「め、めくるめく爆乳・乳頭温泉で乳房乱舞」
「!!……」
先輩は文字通り凍り付いた。今度は口さえ動かさない。いいえ、動かせないみたい。
「ほ……本当なのか? ……このハムスターは、兄貴なんだな?」
恐らくこの言葉は二人だけが知っているキーワードなんだ。先輩と『二人だけの秘密』をまだ持っていない私は、少し雅也さんにヤキモチを妬いてしまった。
『そうだぞ哲也、俺だ、雅也だ。めぐみちゃん、悪いけど通訳してくれねえかな』
「はい、勿論」
私は雅也さんと先輩の間に入って畏まる。そして雅也さんの長い長い独白が始まった。
『……で、ピザ屋のねぇちゃん、「インコを飼ってるんですか?」って言ってたの覚えてるか? あれはな、俺が「ピザ屋さん可愛いね」って何度も言ったからだ。その時はあのねぇちゃんを呼び止める事まで頭を回せなかった。回し車はいくらでも回せるんだがな、ハハハ! それから約一年、お前に彼女が出来るか、女の配達員が来るのを待ち詫びてたんだ』
「そうしたら私が……」
『そう、哲也の彼女になってくれたって訳だ。こいつは妄想の段階で諦めちまうから、ナカナカ彼女が出来なくてな』
やっぱり私とソックリ。先輩との事だって、私の思い込みで危なく無かった事になる所だったし……。
「でもお兄様、なんで私の名前を知ってたの?」
『そりゃ哲也が馬場めぐみ馬場めぐみってずうっとうるさかったからさ。あの妄想具合をめぐみちゃんにも見せたかったな~』
先輩ったら、そんなに私の事を好きでいてくれたなんて感激! これは先輩には伝えないで、私の胸にしまっておこう。
「なぁ、今なんて言ったんだ?」
「うん、大した事じゃないわ。そう、それよりお兄様。先輩に伝えたかった事って?」
私は雅也さんに話の続きを促した。