二次創作ドラゴンクエスト~深海の楽園~
「村を継ぐ前に両親に報告すると言って、墓がある西の洞窟に向かったんじゃがの…それっきり帰らん。村の幾人かを探しに行かせたんじゃが洞窟にもおらんかった。」
レドはそれを聞いて、バラタが自分と同じ境遇であるということに気付いた。
「バラタさんの両親は既に亡くなっているんですね…。」
「母親はバラタを生んだ後に、父親は病に倒れてそのまま亡くなった。バラタは可哀想な孫じゃよ…。じゃからワシとじい様は精一杯の愛情を込めて育ててきた。じゃがじい様も死期が近い…じい様が天に召される前に戻ってきてほしいが…。」
それから黙り混んでしまった老婆。二人も口を閉め、しばらく沈黙が続いた。老婆の表情をチラチラと確認していたレドが、沈黙を断ち切るように口を開く。
「おばあさん、俺らでよかったらもう一度探しに行きます。」
「れっ、レド様!?」
ベネーラは驚いた様子でレドを見ていた。自分たちの目的はパースへ行って歴史の専門家を探す事である。途中の村などを訪れて情報を集める事はしても、その場所でかかえる問題に一々関わって、自らの危険を冒すような事はしなくてもよいはずだからだ。ベネーラはそういった面倒な事はあまり好まない性格なのである。
「アタシ達はパースに行かなくてはならないんですよ?まずそちらを優先した方が…」
「けどベネーラ、旅にはやっぱり宿がいる。この村を出たら、次の村や町まで着くのにどれくらいの時間が掛かるか分からない。暫くお世話になるなら、俺たちも何か力にならないと。」
レドの正義感は強かった。彼女にとってレドという存在は非常に大きいものだ。ここで悪い印象を与えて嫌われては元も子もない。ベネーラは反論することができなかった。
「それは有り難い…!ひとつ空き家があるからそこを好きに使いなさい。ワシはもう一度村の若いのに呼び掛けて、同行するよう言ってくる。」
「いえ、俺たち二人で大丈夫です。彼女、こう見えて意外と頼りになるんです。」
レドはベネーラの背中を優しく二回叩いた。ベネーラはレドの決断に納得が行かなかったものの、彼に背中を触れられて悪い気はしなかったので良しとした。
二人は村長の家を出た後、すぐ裏にある空き家に向かった。二人がしばらく居るには最適な場所だ。人助けをするかわりに家賃は払わなくてもよいと老婆に言われた。節約の面でもプラスになるため有り難い。次第に日が暮れ始め、辺りは夜のとばりが降りてきた。闇を照らすのは村の中にある小屋の明かりだけとなり、ひとつ、またひとつと消えていった。
「この小屋だけだな、明かりがついているのは。」
「レド様、ベッドにシーツ敷きましたよ♪いつでも寝れます♪」
「ありがとう………あれ?」
レドは部屋の中を見回したがベッドは一つしかなく、テーブルのすぐ隣には寝袋が放置されていた。
「ベネーラ……まさか床で寝るのか?」
「レド様は魔物との戦闘で疲れてるでしょうから、ベッドでゆっくり休んでください。アタシはここで大丈夫です♪」
「そんなとこで寝たら風邪引くよ。よかったら俺の隣で一緒に寝るか?ベッドもちょっと大きいし。」
「えっ……いいんですか…?」
「風邪引かれたら、明日バラタさん探しに行くのに響くだろ?遠慮するなよ。」
レドはベッドの端に詰めると、横の空いているところに手招きしてベネーラを誘った。ベネーラは顔を赤くし、うつむきながらマジマジと横になった。緊張で呼吸が荒れ始めたが、レドは気にすることなくランプの明かりを消し、ベネーラに背中を向けてすやすや眠りに落ちた。ベネーラの身体は布団の中でレドと自分の体温で温まってきたが、心にポッカリと穴が空いたような感覚に陥り、期待を胸に閉じ込めながらその日を終えた。