殺戮都市
俺はバカだった。


さっき会ったばかりの女性に助けを求められたくらいで、無視してしまえば良いのに。


日本刀の柄を握り締め、鞘から重厚な光をたたえた刃を引き抜くと、鞘を地面に落として両手で握り締めた。


「お、おい、化け物……あ、明美さんを放せ!」


声が震える、身体も震える。


いくら武器があるからって、俺なんかがこんな怪物に勝てるはずがない。


そう言っても、怪物は明美さんを放さない。


それどころか、大きく開かれた口が、明美さんの頭部を挟むように迫る。


今、口を閉じられたら喰われてしまう。


ガタガタと震える身体を無理矢理に動かして、俺は日本刀を大きく振りかぶった。


「は、放さないと……斬るぞ!」


意を決して、そう叫んだ時……。





















怪物の口は勢い良く閉じられて、バキッという音と共に、明美さんの口から上が消えてしまったのだ。


脳を失っても、もがくようにビクビクと動く明美さんの身体。


俺は……どうして日本刀を振り下ろして明美さんを助けなかったの
かと、後悔する事しか出来なかった。


食われる明美さんを見ながら。
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