彼はマネージャー

ホテルの大広間で行われた立食パーティに参加したのはおよそ千人。
 
柚木は、本当に二塚の後ろを離れまいと、終始背中について回っていた。
 
といっても、初参加の二塚も知り合いはおらず、ただなんとなく談笑しているにすぎない。

 その中でも、二塚が1人だけ、いつも以上に緊張して話をしていた相手がいた。

 周囲が騒がしく、どこの誰かまでは分からなかったが、彼の様子がいつもと違っていたことだけははっきりとわかった。

 後で名前を聞こう。聞いても分からないだろうけど、と思いながら、手持無沙汰に天井のシャンデリアを眺めていると、突然振り返った二塚と目が合った。

「疲れた?」

 立食パーティでテーブルには豪華な料理が所せましと並んでいるのに、何も口にできていない柚木はすぐに首を縦に振った。

「出ようか。部屋ができたし」

「え?」

 最初に挨拶などで一時間も時間をとられ、その後談笑で一時間。既に広間へ入ってから2時間立ちっぱなしであったが、ほぼ何の収穫もないままこの部屋から出てもよいものかどうか、戸惑う。

「ほら」

 二塚はおもむろに胸ポケットからカードキーを取り出して、目の前に差し出して見せた。

「何か買い出しに行こうか。腹が減ったよ」

「って……」

 笑顔で出口に向かい、そのまま本当に廊下に出てしまう。

 廊下も人がとても多く、ロビーまでごった返していたが、知り合いを探そうにも二塚の足がとても早く、あっという間に外に出てしまう。

「ここを左で、コンビニがある」

 言いながらネクタイを緩める横顔は、いつになく機嫌が良さそうで、とても珍しい。

「…………、調べてたんですか……」

「パーティで食えないことは予想がついてたから。何か食べた?」

「いえ……少し飲みましたけど、何を飲んだのかも分からないです」

「あそう」

 二塚は笑いながら、コンビニの灯りに「あった!」と無邪気な笑顔を見せた。


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