彼はマネージャー

「寝るんだったら、スタッフルーム行ったら?」

「えツ!!!」

 二塚の声というより、自分の声に驚いて目が覚めた。

「えっ!?………と……」

 そうだ、メールの確認作業の途中で眠気に襲われて……。

「1時間前からうとうとしてたけど、寝不足?」

 一時間前?

「えっ!?」

 カルティエは、信じられないことに午前9時をさしていた。

「一時間半前か。作業の人がインターフォンが鳴らしてるのに誰も鍵開けないからここ見に来たら、寝てたよ」

 うわ……。

「す、すみません。き……聞えませんでした……」

「まあ、今日朝早かったけど」

 うわもう、来たはいいけど、寝てるって……。

「と、とりあえず、メール出しますッ」

「もうしたよ。向こうのパソコンで」

「す、すみません……」

 そんなわざわざ向こうまで行かなくても、起こしてくれればいいものを……。

「でもちょっと、ここにしかないデータがあるから。ちょっと寄って」

「あ、はい……」

 二塚は今まで柚木が腰かけていた回転チェアを陣取り、パソコンの前で戦闘態勢に入った。

「…………」

「柚木」

「はい……」

 二塚は出張経費精算書の原紙をファイルから出し、20枚印刷をかけてからこちらを見た。

「近江(おうみ)さんがあとで出張経費精算書出しにくるから」

「あ、はい」

 そのまま、20枚の用紙を手に、二塚は出て行ってしまう。

 柚木は溜息をついてから、新しく受信された各メーカーからのメールの指示に従って、処分品になった商品や返品になった商品を仕分けてそれぞれの業者に送り返すようフロアに指示を出した。

 店舗責任者の順で言えば、マネージャーの次がマネージャー補佐に当たる。しかし実際は、三番目のフロアマネージャーからマネージャーに昇格することはあっても、マネージャー補佐からマネージャーに上がることはあまりなく、そのままで位置していることがほとんどだった。

 名前はあるものの、雑用的なことが多く、シフト管理と商品管理が主な仕事である。

 つまりここで補佐に徹してしまった場合、マネージャーへの道が遠くなるということもなきにしもあらずだ。だが、成績を上げないと上も認めてはくれない。

 とにかく、マネージャーをできるだけいや、とにかく補佐し、自らもマネージャーの代わりができるようになるくらい、補佐するのが仕事だ。

 そしていづれは、本社の吉村部長……彼に、「お前はできる奴だ」と褒められたい。

 全社員のカリスマ的存在である彼に、太鼓判を押された上で、仕事がしたい。

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