彼はマネージャー
彼氏と上司に板挟みされた結婚式
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「なあ、香織」
「何?」
「来週の沖崎(おきざき)の結婚式なんだけど」
「あそうだ。バック見とかなきゃ。ドレスはクリーニングから返ってきてるの確認したんだけど、バック探しとかなきゃ」
万が一探してもなかったら、一緒に買い物に行って選んでもらいたいという気持ちを込めてそういう話にもっていこうとしたら、
「うん。俺も礼服出しとかないとな」
じっとこちらを見つめながら礼服の話をする良成の目からは、何か別のことを訴えていることがすぐに分かった。
「うん…………何? 私に服出してって言ってるの?」
「いや。まあ、そうかな」
「……どっかのクローゼットから寝室のクローゼットに移し替えてって意味? え、クリーニングから取って来てって意味?」
こんな雑用を頼まれたこととはないが、頼まれればやらなければいけない位置にいるとということは理解しているつもりだ。
「いやまあ……ひっくるめるとそうなんだけど」
「…………いいけど」
もちろん面倒だなという顔を隠して返事をする。勝己にはおそらく伝わらなかったはずだ。
「今どこに礼服があるか分からないだろ?」
「うん。でも教えてくれたらするよ」
それが上司と部下であり、当然の業務なのだ。例えそれが、ファイルではなく、礼服でも同じことなのである。
「じゃなくて、礼服を管理するようになってほしいかな」
目が合い、それが何を意味しているのか分かった上で、
「れ、礼服の管理ってまた……」
照れを隠しきれず、言葉に詰まった。
「分かってるくせに」
良成は頬にキスを落として、抱きしめた。
「沖崎にアテられたかな」
「…………えっ、あの……」
抱き締め方がいつもと違って力強い。
「こそこそするの、やめたいんだ」
「別にこそこそしてないし!!」
「でも、駐車場でキスすると嫌がるじゃないか」
「普通でしょ! そんなところ大体二塚マネージャーにでも見られたりしたら大変だよ」
「何で?」
「何でってだって……」
「また苛められる?」
「苛められてはないけど」
「フロアに立っとけなんて、いじめだよ」
「確かに苛めかもしれないけど……。だって、先輩の彼女ってなんか嫌じゃない?」
「そんなことないよ。俺の店は部長の奥さんがパートでいるし。そんな気になるようなもんでもないよ。ちゃんとしてれば」
「…………、そんなもんなんだ」
「普段悪いことばっかりしてるような奴はビクビクしないといけないんだろうけど、俺はやましいところなんか一切ないからな」
「そっか……」
「香織は二塚のこと、気にし過ぎなんだよ。あんまり気にし過ぎて好きになってもいけないからな。だから二塚には、香織が誰の者かってことを一番に教えてやっとかなきゃいけない」