フシギな片想い


ある日のこと、玲央さんがいつものようにおばさんの手伝いをしていると、幼い真央が「僕もお手伝いする」とキッチンにやって来たらしい。


小さいながらも、お兄ちゃんの手伝いをしようとしたのだけれど・・・


「おばさんに危ないからダメだって言われてるのに、こっそり包丁持って、案の定、野菜じゃなくて手を切っちゃって、大泣き。あの時は大変だったなぁ」


「へぇ、あの真央にそんな一面が?」


いつもむっつりと不機嫌そうな顔をしたクールな真央。


びーびー泣いてる小さな真央が想像出来なくて、笑ってしまった。


「僕が高校を卒業すると同時に、真央と一緒に施設を出たんだけど、バイト掛け持ちで大学も行く僕に負担掛けたくないって思ってたんだろうね。家事を引き受けようとして、大惨事。洗濯機から泡が噴き出てたり、シンクにあったはず皿がごっそり割れてたり、どうしてそうなるのか解らないんだけど、真央は家事には向かないってことだけは解ったよ」


当時を思い出したのか玲央さんはフフと笑った。


「それで、仕事が増えるだけだから、真央は何もしなくてもいいからって言ったら、本当に何もしなくなったなぁ。掃除機をかける位は出来るから、掃除は真央の担当だったけれどね」


「真央にもそんな弱点があったんだ」


「本人には内緒だよ」


玲央さんは人差し指を唇に当てて、微笑んだ。


はいと頷き、笑い合う。


玲央さんと私の間だけの秘密って何かいいな。


< 104 / 172 >

この作品をシェア

pagetop