フシギな片想い
「電話はもういいや・・・見つけたから」
雨音に交じって、ふわりと甘い香りを鼻を掠めた。
振り向くと、トンネルの入り口で、真央がこちらを覗いていた。
ケータイを右手に握り締め、傘を差したまま、しゃがみ込んでいた。
「真央・・・」
涙を袖で拭い、顔を上げた。
真央は傘を閉じて、トンネルの入り口に立て掛けると、窮屈そうにトンネルの中に入り込んで来た。
制服のままだってことは、バイトから帰って来てそのまま探しに来てくれたってこと?
「ここが美雨の友達の家ね」
サムイ冗談を真顔で飛ばす。
「この嘘つきが!」と言われているようで、恥ずかしくなり、下を向いた。
「確かに前に、ガキでも、公園とか学校とかに家出するって言ったけど、言ったことを忠実に実行する奴、初めて見た」
真央は私の隣に胡坐を掻いて座った。
今月から夏服になった真央の夏服は、黒と黄色の2色使いのタイにグレーのズボンはそのままだったけれど、ワイシャツの上にベージュのサマーベストを着ていた。
ケータイしか持ってなかったので、カバンは家に置いて来たみたいだった。