フシギな片想い


めったなことでは出ないママが焦っている時の癖だ。


真央はそのままゆっくりと元いた位置に移動し、席に着いたようだ。


寝たふりを続ける私のいるベッドを挟んで、真央とママが対峙している。


「胃潰瘍の大きな原因の1つはストレスだって知ってますか?」


唐突に真央が口を開く。


この2人が2人きりで話すのって、初めて聞くんじゃないだろうか?真央がママに対して、すごく他人行儀な口調なのも初めて知った。


「ええ」


ぎこちなくママが答える。


声の震えから緊張しているのが解る。


真央と話すのに緊張しているの?こっちにまで緊張が移って、やっと治まったお腹の痛みが再びぶり返しそうだ。


「美雨が言いたいことを言い返せない性格なのは、だいぶ前から気付いてたつもりでした。例えば、晴美さんと言い争いをしても、本音は最後まで言わない。ぐっと飲み込むんです。空気を飲み込む、ごっくんって。晴美さん、その癖気付いてました?」


ママは何も言わなかった。


自分ですら気づいていなかった癖だった。


真央が握っていてくれた右手がじっとりと汗ばんで来た。


嫌だな、これ以上、ここにいたくない。


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