フシギな片想い


そこまでを説明するのは面倒だから、


「ページを捲る感じがいいから、後、インクの匂いが落ち着く」と取って付けたような理由を述べた。


やっと解放されると、自動ドアを出た所で、「じゃあ、俺、こっちだから」と働く店の方角を指さした。


「私も一緒に行っていい?実は待ち合わせって児玉くんのバイト先なんだよね」


あ、そうなんだ。


じゃあ、一緒に行こうかとも言ってないのに、その子は店に向かって歩き出していた。


やっぱり、女って苦手だと改めて思った。




「ねぇ、見て、児玉くん、かわいくない?」

「見て見て、これかわいい~」

「かわいい~」


肩を並べて歩き始めて数分ですでに、彼女に付き合った自分に後悔をした。


散歩するパグを見つけて、店頭に並ぶぬいぐるみを見つけて、薬局の前に立つオレンジ色の象を見て、とにかく彼女は「かわいい」と連呼した。


「かわいいって言ってる自分がかわいいんだろ?」と突っ込みたい気分でいっぱいだったが、美雨の友達なのでぐっと堪える。


この通りを抜けた先に、バイト先であるファミレスが見えて来る。


若干、速足になっているかもしれなかった。


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