鯉に咲く桜
「遠野は私が。」

首無が言葉少なく手をあげる。
俺は今回、そういう類は御免した。
いや、決して面倒だとかそういう訳ではない。

本家を護らなくちゃいけねぇからな。

「おう、首無。任せたぜ。
氷羅、ゆらにも一応報告しといてくれ。
もしかしたら陰陽師も出てくるかもしれねぇ。
後は、あそこだけなんだが…。」

リクオは低く唸る。
あそこ、なんて遠回しに言っているが誰もが分かるところ。

そう、京妖怪のところだ。

晴明の一件から、羽衣狐は親父によって甦った。
ただ、羽衣狐いわく、もう乙女でも羽衣狐でもないのだと。

どちらの記憶もあるが、ただそれだけだと。
姿もその記憶によるものだとそのときに聞いた。

狂骨は母性の妖怪になったんだと嬉しそうに言っていた。
実際、羽衣狐は京妖怪を護るためにリクオと一緒に実の息子である晴明に刃を向けた。

きっとその通りなのだと思うのだが。

だが過去のことを過去として受け入れられない奴等がここには沢山いる。

確執はなくならない。
それはきっと、俺も同じだ。

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