鯉に咲く桜
「本当に大丈夫だから。」

ね、と笑う兄貴はいつもの優しい兄貴。

「…、はぁ…。叔父貴は頑固ったりゃありゃしねぇな。」


リクオは渋々頷いた様子。
…まぁ、総大将が了承したなら、俺らは何も言えねぇや。

さて、と兄貴は立ち上がる。

「ひどいな、リクオってば。
…ちょっと出てくるよ。大丈夫、そんな遠出はしないから。」


笑って、じゃ、みんなお休み。と部屋を後にする兄貴。


兄貴は、リクオが療養から帰ってきてから少し変わった。
いや、そうじゃない。

リクオの見舞いに半妖の里に行ってからだ。

どこか嬉しそうな反面、どこか悲しそうな辛そうな顔をすることがある。


でも自分でその想いを無理矢理押し込んで、平静を保っている。

俺はそれを見るたびに、心配してしまう。

いつか兄貴が壊れてしまわないか。そう、思ってしまう。

なぁ、兄貴。

雪羅との一件から、兄貴が他人と必要以上に関わらなくなったことは知ってる。

他人に心を開かなくなって、本当の自分を見せない。

それが、俺のせいだってことも、分かってんだ。
だけどよ。

もうそろそろ、良い頃合いなんじゃねぇのか?

俺が、隣で支えるから。
だから兄貴。頼む、頼むから。

昔のように、心からの笑顔を、見せてくれよ。


俺は兄貴が出ていった場所を見ながらそう思った。
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