鯉に咲く桜

side鯉桜

「…全く…。鴉も過保護すぎるね、ほんと…。」

屋敷を出た僕はある場所へと向かう。

そこは、僕にとっても、いや違う。
誰にとってもそこは忘れられない場所。

「…綺麗に咲いた、今年も。」

その場所は、綺麗なオレンジ色の山吹が、咲き乱れる場所。

闇が広がる今の時間だけど、ここはどこか別世界のようだった。

心地よい風が僕の頬を撫でる。

ここで起きたことは忘れない。忘れられない。

僕の大切な弟を、彼女は殺そうとした。

いや、彼女は最初から殺そうとした訳ではないに違いないと思う。


晴明の一件でそのときの事情は分かった。
けれど、それは決して許されるものではない。

「…許したら、いけないんだけどね、本当は…。」

「…何がじゃ?」

ふと、僕以外の声がした。
誰、なんて分かりきったことだ。

「久しいね、リクオの見舞い以来かな。」

「そうじゃの。お主が中々会いにこんから、妾から来てやったぞ。」

あぁ、これだ。
僕が求めていたもの。

「…そう。でも、」

危ないよ、と続けようとしたときだった。
彼女の目に、鋭さが宿った。

「お主、何を考えておる?妾がお主に会いに行きたいから来た。
ただそれだけじゃ。」

「…っ、…敵わないなぁ、君には…。」

「当たり前じゃ。妾を誰だと思うておる。」

相変わらずのその不遜な態度。

「…ふふ、そうだね。
君は京妖怪の総大将の、羽衣狐だ。」


目の前の、彼女…もとい、羽衣狐は嬉しそうに笑った。


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