鯉に咲く桜
「…それにしても、お主は1人で出歩くの好きじゃのう。
奴良組の長男の自覚はあるのかえ?」

「…君、鴉みたいだよ。…大丈夫、僕が死ぬ、なんてことはないから。」

「お主の実力は未知数じゃが、心配はしておらぬ。
…じゃが、これだけは忘れるなよ。
お主が怪我などすれば、妾はそやつを許さぬ。」

…っ、こりゃ、参ったね…。
僕は紅くなる頬を隠すために片手で顔を覆った。

羽衣狐は、その手をそっと握った。
視界に入った彼女の顔は、母性に満ち溢れている。

もう、憎しみに囚われることはない。

「…のう、鯉桜や。
過去を過去に出来ぬ奴等は沢山おる。
それはどちらも同じじゃろう?
…きっと、妾も一緒じゃろう。犯した過去は変えられぬ。
じゃが、鯉桜。妾は、あのときお主に会ったとき、運命を感じた。
どんな困難も、お主となら乗り越えていゆける。
そう思えたのじゃ。我等は相容れぬ運命…。
じゃが、この想いはなくしとうない。
初めてなのじゃ。誰かを、こんなに想うたのは。」

!!…僕は、もう耐えられなかった。

ぎゅっ…!

「…あのときから、ずっと君を想い続けてきた。
それがどんなに許されないことだとしても…。
ずっと、愛してた。今でも、愛してるんだ。」


そう。これは許されるものではない。
どんなにお互いを思っていても、これは変えられない。

「…羽衣狐。近々、また大きな争いが始まる。
羽衣狐も、気を付けて。西洋妖怪が、日本に上陸してる。」

「心得ておるわ。その為に、妾はここに来たのじゃから。」


どうやら、羽衣狐は分かっていたみたいだ。
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