恋の神様はどこにいる?
「千里さん、お電話でーす。すぐに戻ってくださーい」
「和歌ちゃん、ありがとう。あ~あ、残念だけど行かなくちゃ。ここはひとまず志貴に譲るとして。志貴、母屋の応接室でみんな待ってるから、小町ちゃんを連れてって。僕も電話が終わったらすぐに行く」
「ったく。兄貴も最初からそこで、おとなしく待ってればいいだろ」
「それは無理でしょ。僕も早く小町ちゃんに会いたかったからね。じゃ小町ちゃん、後でね」
「あ、はい……」
「さっさと行け」
志貴の憎まれ口を聞いても怒ることなく爽やかな笑顔を見せると、千里さんは軽やかに階段を上がっていった。
やっと左手が自由になって、安堵の息をこぼす。でも右手に視線を落とすと……。
「ねえ。志貴はいつまで握ってるつもり?」
「さあ。俺の気が済むまで?」
「意味わかんないし」
でも志貴ならそう言うだろうと思っていた私は、その手を無理に振り解こうとはしなくて。右手から視線を上げると、階段の一番上を見つめた。
「ちょっと気になってることがあるんだけど」
「何?」
「母屋の応接室でみんな待ってるって千里さん言ってたけど、今日は面接なんだよね? みんなって誰のこと?」
「それは……。行けばわかる」
物事をハッキリ言う志貴には珍しく、歯切れの悪いものの言い方に一抹の不安をおぼえる。
そりゃあ行けばわかるだろうけれど、できれば事前に知っておきたいと思うのは私のワガママ?
でも志貴のことだから、これ以上何を聞いても無駄だとわかっている私は、志貴に手を引かれ渋々階段を登り始めた。