恋の神様はどこにいる?
支度が整ったのは、志貴が迎えに来る三十分前の八時半。まだ時間があるというのに、そわそわして落ち着かない。
外で待ってようかとも思ったけれど、起きた時よりも雨の勢いは増していて。
玄関で靴を履くとその場でしゃがみ、ドアの向こう側から聞える雨音を聞いていた。
その音に混じって時々聞こえるのは、車がアパートの前を走りすぎていく音。タイヤが道路に溜まった雨水を巻き上げて、ジャージャーとけたたましい音を立てている。
「収まる気配ないよね」
ポツリ呟いて時計を見れば、まだ十分しか経っていない。
時間って、早く経って欲しい時に限って全然進んでくれなくて。そんなことしてもどうにもならないとわかっていても、時計を睨んでしまう。
こんな気持ちのままここで座ってるくらいなら、外で待っていたほうがマシかも。自転車置き場なら、雨もしのげるだろうし。
立ち上がると棚の上に置いてあった鞄を手にし、外へと出た。
幾分治まって入るもののまだ降り続いている雨は、共同廊下の軒下も濡らしている。なるべく濡れない内側の壁近くに立つと、鍵を閉める。
自転車置場までは、階段を降りればすぐ。
「傘は差さなくてもいいか」
鞄と傘を抱えると、階段を駆け下りる。
でも途中まで下りて足を止めた。
「え? なんで……」
アパートの前に見覚えのある白いライトバンが、ハザードランプを点滅させて停まっていて。息をするのも忘れて、立ち尽くしてしまう。