恋の神様はどこにいる?
「まあまあ、志貴。妄想は個人の自由だ。その楽しみを奪うのはどうかと思うよ。でもその妄想、僕とのことだと嬉しいんだけどなぁ」
そう言いながら私に近寄ろうとした千里さんを、志貴が制止した。
「兄貴のその楽天的な考え方、羨ましいよ。でも残念ながら、小町の妄想相手は兄貴じゃない」
志貴は千里さんに向かって自信有りげに言うと、私を振り返り見る。
「な?」
な? その“な?”一言で伝えたいことって何?
千里さんの発言が、どこまで本気かはわからないけれど。仮に千里さんが私のことを、本当に好きだとしたら申し訳ないけれど。
確かに妄想していたのは千里さんのことではなくて、志貴とのことで。
でもまだ告白もしていないし、そんなこと志貴にわかるはずもなく。『な?』と言われても『うん』と、この場では頷けない。
「まあ小町ちゃんの気持ちはおいおい変えていくことにして。これからは仕事の話」
「はい」
そうだった。いきなり千里さんに抱きつかれたから忘れかけていたけれど、今日は仕事に来たんだった。
「志貴はご祈祷があるんでしょ? 早く行かないと」
「わかってる。小町、昼から巫女舞だかんな」
「はい」
祈祷の時間が差し迫っていたのか、志貴はそう言うとすぐに部屋を出て行ってしまった。