恋の神様はどこにいる?
「これ、なかなか難しいんだよね」
普段履き慣れない足袋に四苦八苦しながらも履き終えると、腰巻きを巻き襦袢に袖を通す。その上に白衣(びゃくえ)をまとうと、部屋の入口近くにある姿鏡の前に立った。
「いいんじゃない?」
うなじ部分を広く開かないように整えると、緋袴を足に通した。腰の高い位置にくるように前を合わせ、前帯を腰に回して結ぶ。後ろ部分に付いているヘラを前帯に引っ掛けると、今度は後帯を前へ回し、上指糸を見せるようにチョウチョ結びにしたら完成。
姿鏡で後ろ姿も確認すると、ふぅ~と大きく息を吐いた。
「千里さん、いますか?」
もしかしたらいないかも……なんて思いながら襖を開けそろりと顔を出すと、廊下の壁にもたれて腕組をしていた千里さんが顔を上げた。
「思ったより早かったね」
「ずっとここにいたんですか?」
「そうだけど? どうして?」
「千里さんもお忙しいのに、申し訳ないなって……」
「そんなこと、小町ちゃんが気にすることないでしょ。ホントは志貴が教育係なんだけど、アイツも忙しいからね」
ご祈祷があるって言っていたっけ。慌てて出て行ったくらいだし、本当に忙しいみたい。
神職として仕事をしている時の志貴は、普段私に接する態度とはまるで違っていて。真剣に取り組んでいる姿を初めて見た時は、その凛々しさに胸の高鳴りを抑えることができなかったのを今でも覚えている。