恋の神様はどこにいる?

「小町ちゃん、ちょっとここに立ってみて」

「あ、はい」

いつの間にか和室の姿鏡の前にいる千里さんに近づくと、その前にピシッと立ってみせる。

千里さんは私の周りを一周歩いて回ると、「うん」と声を上げた。

「上出来。小町ちゃん、覚えがいいね」

「そんなことないです。でも巫女の装束を身にまとうと気持ちが引き締まるというか、ちょっとだけ違う自分に慣れるような気がします」

「巫女といえば“神に仕えし者”だからね。その気持ちは大切だと思うよ」

「はい」

「じゃあ、まずは授与所に行こうか。午前中は、この前手伝ってもらった時と同じ仕事をしてもらいたいんだ。和歌ちゃんはいないけど、できそう?」

「はい、なんとか」

「ひとり神職が入ってるし、祈祷が終われば志貴が来ると思うから。それまで頑張って」

───志貴がくる……

たったそれだけの言葉が、私を奮い立たせる。思わす安堵の笑みを漏らすと、千里さんが頭にポンと手を乗せた。

「わかりやすいね」

「はい?」

「なんでもない。じゃあよろしくね、小町ちゃん」

千里さんは先に授与所にいた神職の相川さんに私を紹介すると、急いで自分の仕事に戻っていった。



< 176 / 254 >

この作品をシェア

pagetop