恋の神様はどこにいる?
「小町ちゃん、ちょっとここに立ってみて」
「あ、はい」
いつの間にか和室の姿鏡の前にいる千里さんに近づくと、その前にピシッと立ってみせる。
千里さんは私の周りを一周歩いて回ると、「うん」と声を上げた。
「上出来。小町ちゃん、覚えがいいね」
「そんなことないです。でも巫女の装束を身にまとうと気持ちが引き締まるというか、ちょっとだけ違う自分に慣れるような気がします」
「巫女といえば“神に仕えし者”だからね。その気持ちは大切だと思うよ」
「はい」
「じゃあ、まずは授与所に行こうか。午前中は、この前手伝ってもらった時と同じ仕事をしてもらいたいんだ。和歌ちゃんはいないけど、できそう?」
「はい、なんとか」
「ひとり神職が入ってるし、祈祷が終われば志貴が来ると思うから。それまで頑張って」
───志貴がくる……
たったそれだけの言葉が、私を奮い立たせる。思わす安堵の笑みを漏らすと、千里さんが頭にポンと手を乗せた。
「わかりやすいね」
「はい?」
「なんでもない。じゃあよろしくね、小町ちゃん」
千里さんは先に授与所にいた神職の相川さんに私を紹介すると、急いで自分の仕事に戻っていった。