恋の神様はどこにいる?
やっぱり忙しかったんだ。
これ以上迷惑をかける訳にはいかない。所定の場所に腰を下ろすと小さく息を吐き、心を落ち着かせる。
神社の境内を見渡せば、若い女性の参拝者がちらほら来ているのが見えた。
「これから参拝者が増えますからね。わからないことがあったら、なんでも聞いて下さい」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
歳は四十代くらい? 子煩悩パパを予感させるような、優しい顔立ちの相川さん。
相川さんも優しそうな人で良かった。
来る時降っていた雨は、もう上がっていて。雲の切れ間からは、青空も顔をのぞかせている。仕事始めの日には、いい天気になってきた。
全く初めての分野の仕事を始めるワクワクした気持ちと、ほんのちょっとの不安。それが相重なりあって、不思議な気持ちを作り出す。
もしかして、天職?
まだ始まったばかり。何もかもこれからだというのに、そんな気にさえなってしまう自分がいる。
「すみません。このお守りとこっちのお守りを頂きたいんですけど」
女性の参拝者がやってきて、恥ずかしそうにお守りを指差す。
きっと好きな人が居て、お互いにこのお守りを持つのだろうと思うと自然に笑みが溢れる。
ふたつのお守りを袋に入れて「お納め下さい」と渡すと「ご苦労様でした」と頭を下げた。
これは先日ここで手伝いをした時教えてもらった、巫女ならではの言葉遣い。まだまだ慣れないけれど、早く自分のものにして巫女として一人前になりたい。
そんなことを思いながら女性の背中を見送ると、もう一度気を引き締め座り直す。
こうして、私の巫女としての一日目がスタートした。