恋の神様はどこにいる?

「ご苦労様でございます」

授与所の前に一組の男女が姿を現すと、志貴は丁寧に挨拶をし頭を下げた。それは意識してしている姿勢じゃなく、きっともう身体に染み付いているものなんだろうけれど。キリッと背筋の伸びている姿は、相手が男の人なのに『綺麗』と思わずにはいられない。

授与所に訪れた男女は夫婦で、夫の厄除けの祈祷に来たらしい。志貴は後ろの棚から一枚の紙切れを取り出すと、それを夫婦の前に差し出した。

「こちらに必要事項の記入をお願い致します。初穂料のほうは……」

志貴はひと通りの説明をすると、もう一度頭を下げてから私の方に振り向いた。

「小町さん、待合室までの案内、お願いできる?」

こ、小町さん!? 志貴と知り合ってすぐに『小町』と呼ばれ、さん付けなんて一回もされたことなかったのに。

しかもその破滅的な笑顔、こんな時に向けないでよ!! 顔がニヤけてしまいそうになるじゃない……。

志貴はそんな私の心の中を知ってか知らずか、笑顔を保ったまま私を見つめている。

「はい。わかりました」

志貴の視線に耐えられなくなって目を逸らすと、小さくククッと笑い声が聞こえた。

もしやこの笑い声は……。

即座に志貴へと顔を戻せば目の前にいる夫婦がこちらを見ていないのをいいことに肩を揺らして笑っていて、また遊ばれたと気づいた時には志貴はもう夫婦と何かを話していた。そしてクルッと顔をこちらに向けると、

「小町さん、ご案内お願いします」

なんて、平然と仕事を振られてしまった。今度は口元に、ニヤニヤと笑いを浮かべて。



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