恋の神様はどこにいる?
あれは全部嘘だったの? エッチができないからって彼氏に振られてばかりの私を、可哀想だから合わせてただけなの?
優しく抱きしめたり、こっちの気も知らないでキスしたり。その気にさせて楽しんでただけなの?
次から次へと出てくる志貴のことを疑ってしまう気持ちに、心が押しつぶされそうになってしまう。
全身の力が抜けると、手に持っていた鞄がスルリと床に落ちて音を立てた。
「誰かいるの?」
千里さんの問いかけに、身体がビクリと震える。ここから逃げなくちゃと思うのに、足が素直に動いてくれない。
そうこうしている間に、目の前の扉がガチャリと開いた。
「あれ、小町ちゃん? こんなところで何してるの? 志貴なら詰め所に……」
「あ。す、すみません。そういえば、友達と約束してるの忘れてて。志貴……に、送ってくれなくていいって伝えておいて下さい。さようなら」
千里さんにそう告げると、部屋の中にいた五鈴さんと目が合ってしまう。五鈴さんは私に気づくと、ふわっと微笑んで手を振った。
あんな素敵な笑顔を見せる人に敵うはずがない。綺麗で優しくて、何でもこなせてしまう五鈴さんに勝とうなんて、最初から無理な話だったんだ。
志貴だって子供みたいな私より、大人で落ち着いている五鈴さんのほうがいいに決まってる。なのに私ったら……。
ギュッと目をつぶると、床に落ちた鞄を取り上げた。
「小町ちゃん? 何かあった?」
千里さんの心配そうな声に、身体が震え始める。
「ごめんなさい。失礼します」
駄目だ。このままここにいたら、絶対に泣いてしまう。そうしたら千里さんも五鈴さんも、おかしいと思うはず。
小さく頭を下げると、クルッと踵を返して走りだした。