恋の神様はどこにいる?
『おい小町、準備出来たか?』
扉の向こうから、私を呼ぶ志貴の声。
パッとお母さんから離れると、顔を見られないように身体を反転させた。
「準備出来てるわよ」
お母さんの声に、志貴が部屋へと入ってきた。
志貴、タイミング悪すぎ。何も泣いてるところに来なくてもいいじゃない!!
鼻をグズグズさせていると、私に向かって近づいてくる足音に身体を縮こます。
「なあ、何泣いてんの? 小町泣かせたの、母さん?」
「私はただ、志貴をよろしくねって言っただけで……」
「はぁ? なんだよそれ。そんなこと五鈴に言ってやれよ」
「あ、そうね。五鈴ちゃんにも言わなきゃ。じゃあ志貴、後はよろしく」
「ったく、母さんには参るよな。おい、いつまでそっち向いてるつもり?」
志貴の口調は、こんな時もいつもと変わらず俺様で。
彼女が泣いてるんだからちょっとは優しくしたらどう? と心の中で思いながら、『今夜罰な』とか言われるのが容易に想像できて、実際口には出せない。
「もう泣いてない。ちょっと、あっち行っててよ」
「俺がどこにいようと、彼の勝手だろ。早くこっち向け」
嫌だと首を振って見せても、志貴の力でクルッと元の向きにされてしまうと、ピタッと目が合ってしまう。
「うさぎみたいな目しやがって。早いとこその目とメイク、どうにかしろよ」
「うん」
「で、母さんだけど。よろしくって他に、なんて言ってた?」
志貴は少ししゃがんで私の目線と合わせると、興味津々の顔をして私の顔を見つめる。
これは絶対に話さなきゃいけない状況?
志貴の眼力に負けた私は、おずおずと話しだした。