恋の神様はどこにいる?
そろそろ席に戻らないとと思い手を洗っていると、個室になっているトイレの扉がドンドンと音を立てた。
「おい小町。大丈夫か?」
「志貴? 大丈夫だけど、なんで?」
「いや、戻ってくるのがちょっと遅かったし。席立つときのおまえの様子、ちょっと変だったような気がして」
本当に、志貴って不思議な人。
怒ったり勝手なこと言ったり。でもなんだかんだ言って優しかったり。
志貴のそばにいたい───
そんな気持ちが、ふわっと心の中に浮かび上がってきて。
扉の鍵を開けると、自然と笑みがこぼれた。
「志貴ごめん、心配かけて」
「おまえの目、赤くね?」
「ああ、これは……。目にゴミが入っちゃって。コンタクトだから痛くて」
「ふ~ん、そうなんだ。ほら雅斗たち待ってっから、早く行くぞ」
そう言って差し出された志貴の大きな手に、なんの躊躇もなく自分の手を重ねる。
「ねえ志貴?」
「ん?」
「私、志貴を一ヶ月で落としてみる」
「なんだよ、いきなり。馬鹿って言ったの謝って欲しくなったのか?」
「ううん、違う。自分を変えたいって思ったの。変わった自分で、真正面から志貴に勝負したいって」
「そ。でも俺は手強いぞ。そう簡単には落ちないから、そのつもりでいろよ」
「わかってる」
「なら、勝手にしろ」
そう言って志貴は不敵な笑みを見せると、私の手をギュッと握り直した。
その手は志貴が何を考えているか教えてはくれなかったけれど、志貴という確かな存在だけは伝えてくれる。
この手、離したくないな───
繋がる手を見つめながら、何故かそんなことを思ってしまった。