恋の神様はどこにいる?
「小町ちゃん、こっち。あそこに座っている人が今日の祈願の依頼主。そして、あそこにいるのが……」
「あ」
「そう、志貴だね。そしてその正面に座ってるのが宮司といって、この神社の代表者。華咲神社の一番偉い人で、僕達の父親ってわけ」
「千里さんと志貴のお父さん……」
そう答えていても、私の目は志貴から離れてくれなくて。
「今日の志貴は祭員と言って、祭具を運んだり玉串を手渡したりといった補佐的な仕事をしていてね……って小町ちゃん? 僕の話聞いてる?」
もうこの時の私はなんの音も耳に届いてはいなくて、志貴の初めて見る真剣な顔に釘付けになっていた。
神主とは神に奉仕する者を指し、現代神道では『神職』と言われている。
今の志貴はまさしく “神に奉仕する者” にふさわしい立ち居振る舞いで、いつも私を馬鹿にするサディスティックで俺様の姿はどこにも見当たらない。
頭には烏帽子を被り、白衣に狩衣、浅葱色の袴姿は凛々しくさえも見えて、私は胸の高鳴りを抑えることができなくなってしまった。
何なの、この鼓動の速さは───
自分でも感じたことのない感情に戸惑っていると、千里さんの手がそっと肩に触れた。
「ちょっと休憩室に行こうか」
その声に顔を上げると、千里さんはまるで幼子を見るような目で私を見つめ頭をポンポンと撫でた。
「これは、志貴は夢中になるのも無理ないね」
「志貴が夢中、ですか?」
「いや、なんでもない。ほら、行くよ」
志貴って、何に夢中になってるんだろう? ちょっと気になる……。