恋の神様はどこにいる?
もう一度視線を志貴に戻すと、一瞬だけ志貴と目が合ったような気がした。
志貴、もしかして私がいることに気がついてる?
少し収まりかけていた鼓動がまたスピードを上げ、私の身体を熱くしていく。わけの分からない感覚に、私の心はオーバーヒート寸前。
志貴から目をそらすと、少し離れたところで待っている千里さんのもとに急いだ。
休憩室の窓から外を見ると、今にも泣き出しそうな曇り空が見える。
テレビのニュースでこの地方も梅雨入りしたと聞いた日からまとまった雨は降っていないものの、すっきりしない日々が続いていた。
「はい小町ちゃん、お茶どうぞ」
「ありがとうございます。客でもないのに、すみません」
「いいよ、そんなこと気にしなくても。それに僕は今日は休みだしね」
そういえば今日の千里さんは袴姿じゃなくて、グレーの鹿の子生地のポロシャツにスリムタイプのストレートデニムというラフなスタイル。カジュアルなのに綺麗に着こなしている姿は、さすが千里さんと言ったところだろう。
「ところで……」
千里さんはそこで言葉を止めると、微笑んでいた顔をキリッとしたものに変え私の目を見据えた。
「どうして会社を辞めることになった小町ちゃんが、志貴に会いに来たわけ?」
「それは……」
「日曜日の様子からして、ふたりはまだ知り合ったばかりと見たけど、違う?」
「はい、土曜日に突然声を掛けられて」
「やっぱり。なのにどうして今日、小町ちゃんは志貴に会いに来たのか。志貴になにか言われた?」