愛情の鎖
それから自宅に着くと、私は重い息を吐いた。
あんなに癒しだった家が今はひどく遠い存在に感じる。
タクシーの移動中何度も母と翔太から電話があったけど、出なかった。
宗一郎さんからの連絡はない。
もし、まだ母と一緒だったら……
そんな恐怖が頭を過ったが、タクシーが家に着くとそこにはもう宗一郎さんの気配は存在しなかった。
ホッとした。
念のため、家の周りも確認してみたが、それらしい車は止まっていなかった。玄関にも宗一郎さんの靴はない。
だけど、それで安心なんてしてられない。
「……梨央!」
扉を閉めるなり、血相を変えた母がリビングの方から飛び出してきた。
青ざめた顔で私達の方に駆け寄り、私に抱かれる菜々の姿を見て泣きそうな顔をする。
「ごめんなさっ、わたし……」
菜々の頭に触れようとした母を避けるように、私は靴を脱いで家の中に入った。
「…梨央……」
一度も目を合わせなかった。
ていうより合わせることが出来ず、私は硬い表情のまま2階の菜々の部屋に重い足取りでかけ上がる。