愛情の鎖

「……梨………」

「……いつから、なの?」


少しの間を置いて私は母より先に低い声で言った。

自分でも驚くほど無機質な声だった。

母に限ってあんなことするはずがない。きっと何か理由があるんだ。
そう思う反面、やたらいいようのない怒りもこみ上げてくる。



「……お父さん、は?このこと知ってるの?」


シンクに両手をつき、ぎゅっと拳をつくる。

怒りと同じぐらいショックが大きい。そして大きな悲しみに胸が張り裂けそうに痛む。

私は母に背を向けたまま返事を待った。



……だけど、重苦しい沈黙が続く。

しびれを切らし後ろに振り返ると、今にも泣き崩れ落ちそうな母が顔を横に振っていた。


「ほんとっ、ごめんなさっ……」

「泣いてたって分からないでしょ!?お願いだから言い訳ぐらいしてよ!」


そんな風に泣かれたら余計さっきの出来事がリアルに感じる。信じたくないのに母と宗一郎さんが親密な関係なんだって嫌でも思い知らされる。


「泣きたいのはこっちだよっ」

「……っ………」

「どうしてよりによって宗一郎さんなのよ!」


私達家族を壊した張本人なのに、母の神経が分からない。

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