愛情の鎖
歌い終わると静寂な夜空が戻ってくる。
所々に散らばった星。あいにく今日は曇り気味でさほど綺麗ではないけれど、なんとなく清々しい気分になった。
「じゃ、私はもう寝るねー」
私がそう言うと、静かに目を閉じていたコウさんが「ああ」と左手を上げた。
そして立ち上がりゆっくり私の方へと近づいてくると「ちゃんと歯磨けよ」と言って今度は右手を私の前に差し出した。
「ほら」
そう言ってフェンス越しに器用に手渡されたのは、一口サイズのミルクチョコレート。
胸元ぐらいの高さの浅い柵を挟んで渡されたそれは、コウさんがいつも持ち合わせている定番のものなんだけど…
「やってることが矛盾してない?」
「まぁ、気にするな」
「本当いい加減なんだから…」
「礼だ。くれるもんは素直にもらっとけ」
「だったらもっと豪華なものがいいんだけど」
「お子ちゃまにはそれで十分だろ」
嫌味ったらしく口の端を上げたコウさんにムスッとむくれる私。
「私、来週で22才なんだけど……」
「ふっ、まだ22かよ」
「うっさいよ、おじさん!」
どうせお子ちゃまですよー
ギロリと睨んだ私は「お、や、す、み!
と投げやりに今度こそコウさんから背を向けた。
ふんだ。嫌味な奴め!
コウさんってば絶対に性格歪んでる。
そう思いながらもふと手元を見れば、今しがた貰った甘ったるいミルクチョコレート。
「ふふ……」
あんなクールな顔しといて甘い物が好きだなんて笑っちゃう。
人って案外見かけによらないよね。
「甘いもんは俺にとっちゃ大事なエネルギー元なんだよ」と言ったコウさんの言葉が忘れられない。
そのギャップに吹き出してしまいそうになった私は手に持ったそれを口の中に放りこむ。そしてクスッと笑い洗面室に向かったのだった。