愛情の鎖
「ねぇ、どこでもドアがあったら何処に行きたい?」
「なんだ、唐突な質問だな」
コウさんがふぅ~と煙を吐いて、くっと喉を鳴らしたのが分かる。
まだ肌寒い空の下、私はカーディガンを羽織ながら静寂な夜空を真っ直ぐに見上げた。
「私は…鎖のない世界に行きたいなぁ」
「……鎖?」
「そう、何もしがらみのない無知の世界がいい」
そこには人間なんてものは存在しなくて、花と自然に囲まれただけの憎しみのない真っさらな世界。
私達人間が創り出される遥か昔の何もない聡明な世界がいい。
「ね?絶対空気がキレイだと思わない?」
「ふっ、またお得意の妄想かよ」
「違うよ。ただのちっぽけな願望」
そして願い。
この息苦しい環境の中でしか生きられない窮屈な私のささやかな祈りかもしれない。