愛情の鎖
コウさんの痛い視線が刺ささり、私は苦笑いを浮かべる。
「いいのか、あれ」
「え?」
「あの二人を止めに行かなくていいわけ?」
再びコウさんが宗一郎さんの方へと視線を向けたから、私も同じように向ける。
するとそこには、宗一郎さんと女将さんがさっきよりも濃厚なキスを交わしているのが見えて逆にこっちが赤面してしまう。
だけどその瞬間…何故か心がストンと落ちてしまった。
強烈な心境の反面、なんだか冷静な自分もいて、この状況を妙に納得してしまったのだ。
「まぁ、いいんじゃない?」
「は?」
「あの人のやりたいようにやらせておけば?」
これではっきりしたもん。
宗一郎さんには他にも女の人がいるってことが。
少し驚いた顔をしたコウさんに、私はさらりと言葉をこぼす。
「どうせ初めから好きで結婚したわけでもないし」
「えっ…」
「もう私は部屋に戻るからコウさんも戻った方がいいよ。コウさんはどうして此処に?仕事?それともプライベート?」
「いや、仕事で……」
「そう。じゃあ仕事に戻りなよ。せっかく声かけてくれたのに、変なことに巻き込んじゃってごめんね。また、マンションでね……じゃあ」
私は背を向けて元来た場所に歩き出した。
コウさんの視線を感じながらも、宗一郎さん達にばれないように庭園か遠ざかる。
なんだか妙に落ち着いていた。
途中「おい…」と、コウさんに呼ばれたような気がしたけど、私は聞こえなかったふりをして早々と部屋まで戻った。