愛情の鎖
―――…
その日を境に澤田家には少しばかり微妙な変化がおきた。
宗一郎さんが次の日から家に帰ってこなくなったのだ。
どうやら仕事にトラブルが生じたらしく、落ち着くまで家には帰れないということだった。
それを聞いた私は正直驚いたけど、目に見えてホッとし、このまま一生帰って来なければいいのにとさえ思った。
だって宗一郎さんがいなければ面倒くさいセックスに付き合わなくてもいいのだ。それが心底嬉しくて、毎日の苦痛から解放された気分だった。
その代わり…と言ってはなんだけど、あの日を境にコウさんと一緒に過ごす時間が増えた気がする。
最近じゃあ毎日のように夜な夜な屋上でたわいのない会話をするのが普通になっていて。
別に約束はしてない。だけどまるで暗黙の了解かのように顔を合わせる私達。
しかもあの花火以来コウさんとの距離が微妙に縮まった気がして、今じゃ平気で柵を飛び越えて私はコウさんの敷地内に入り浸っている始末。
妙に気が合う存在。
だけど謎だらけの男。
言いたいことを言い合って。
隣人という曖昧な関係の中で、私は自分でも気づかないうちに彼とのゆるい時間がひそかに楽しみになっていた。