愛情の鎖

「なんか最近楽しそうっすね」

「え？」

「顔がにやけてますよ」


久しぶりの実家への道中、翔太にそんなことを言われてハッと窓の外から運転席に視線を戻した。


「何か良いことがあったんですか？」

「……別に……」


バックミラー越しに目が合いながら、感情を抑えた声を彼に返す。

顔、にやけてたかなぁ？どんな風に？

自分でも不思議に思いながら、バッグから手鏡を出してマジマジと自分の顔を確認すると、運転席の方から微妙な笑い声が聞こえてきた。


「くく……」

「なによ。笑ってないでちゃんと安全運転に集中してよね」

「もちろんっす。もしかして頭の事でも考えてたんですか？」

「……は？…違う、けど……」

「なーんだ。そうなんすっね。俺はてっきり頭の事を思い出してるもんだと思ってました」


ミラー越しで視線を向けられ、私は素知らぬ顔して翔太から目を反らす。

悪いけど、それはない。

絶対にない。

宗一郎さんのことなんて、今の今まですっかり忘れてたんだから。