愛情の鎖
父は会社を経営する立場、普段家にはあまりいた記憶がない。
けれど、たまの休みの日は決まって私達家族の為に時間を使ってくれる優しい人だった。
買い物や旅行、私達の為に自分の貴重な休みを削って家族団らんの時間をつくってくれた父。
仕事には厳しい。だけど私や菜々、母親にはすごく甘く、オンとオフを使い分けてる器用な人だった。だからこそ、私はそんな父が大好きでとても慕っていた。
だけど、そんな父に「わたしが不甲斐ないばかりに梨央に辛い思いをさせてすまない」と泣かれた時はたまらなく張り裂けそうな思いだった。
父だって好きでこんな現状にしたわけじゃない。
あの時、最後までお金の工面をしようとし、私達家族を助けようとしてくれていたのは誰でもない父なのだ。
そして追い詰められた父の自殺を止めたのは私。
「死ぬぐらいの覚悟があるならもう一度這いつくばって!」「死んだつもりでやり直して!」「私達家族を置いてかないで!」
そう言って必死な思いで父の胸ぐらを掴み泣き叫んだのをよく覚えている。
死んだら終わり。
今まで築き上げてきたものが何もかもが無駄になってしまう気がしたから。
私が宗一郎さんの妻になることで皆が救えるなら、そんな単純なことで皆が元通りに戻れるなら私が犠牲になっても構わないとあの時本気でそう思えたのだ。