愛情の鎖
その日も何故か母には会えなかった。
携帯に電話してもまったく繋がらず、「留守番電話に接続します…」とアナウンスが耳に流れるたび、少し寂しい気持ちになった。
何か習い事でも始めたんだろうか?
それとも別の何か…?
この前菜々から聞いた意味深な言葉を思い出しながら、私はガックリうな垂れる。
持ってきた母の大好物の抹茶のロールケーキを冷蔵庫に入れ、再びリビングの方へ戻ると、ちょうどソファーの下に落ちかかっていたスカーフに目が止まった。
それは母が出かける際はいつもつけているお気に入りのもので、黒とベージュの色合いの肌触りのいい上質なもの。
珍しい…
そう思いながら私はしょうがなくそれを拾い上げる。そしてそれを畳もうと広げた瞬間、「え…」と、思わず手を止めてしまった。
この匂い……
微かに香ってくる甘ったるい香り。
それは最近身近に嗅いだことのある身に覚えのあるもので。
まさか…
ちがう。
気のせいよ。
きっと偶然よ。
だってこの手の香水なんていくらでもあるんだもん。
私の思い過ごし。
うん。きっとそう。
私は邪な考えをブンブン振って、誰も居ない実家を後にした。